探偵見習いと化け猫」各章・・・・・・・・。 」

   第十一章


 その頃、天猫とシロは大人しく神社で待っていたのだが、待ちきれないからだろう。シロが叫び声を上げていた。上げた時間は、海と沙耶加が公園を出た時だった。

「もう、我慢できない。お腹が空いて死にそう」

「もう少し待ってくれないか」

「もう、駄目、駄目、死にそうなの」

「そう、言われてもなぁ。事務所にも家に帰る事も出来ないのだぞ。後で、好きな物を食べさせてやるからなぁ。もう少し待ってくれよ」

「そんな事が出来るの?」

「うっうう。なら聞くが、シロさん。何が食べたい?」

「誰にも言わないでよ」

「内緒にするよ」

「本当ね。私、噂で聞いたのだけど、ネズミとか蜥蜴って食べたら美味しいのでしょう」

「え」

 天猫は、驚きの声を上げた。意味が分からなかったのだ。それで、再度問い掛けた。

「聞き間違いで無いよなぁ。ネズミか蜥蜴を食べてみたいのか?」

「そうよ」

「それは、焼くのか煮るのか、それとも生で?」

 天猫は、冗談で聞いてみた。何かの料理と思っている。そう感じたからだ。

「出来たら、生がいいわね。狩ってするのでしょう。それすると、美味しさが増すのよね」

「そうかあ、安心しろ。食べさせてやる。狩も教えてやろう」

「待つって一分なの、それとも五分?」

と、真剣な表情で問い掛けられ、降参するしかなかった。

「はっぁ、五分待ってくれ」

(仕方が無い、狩をすると言って、海が帰りに歩いたと思われる道を歩くしかないな)

「分かったわ」

 そして、五分が経ち、精神的に疲れたのだろう。

「さあ、行こうか」

天猫は溜め息を吐くような言葉を掛けた。

「はい、楽しみです」

「狩は命がけだから」

「ええ、危険なの?」

 天猫の話しを、沙耶加は、悲鳴のような声で遮った。

「意気込みの話だ。それ位は真剣な気持ちでないと、ネズミは捕まえられない」

「捕まえるの。そうよね。生で食べるのだし生きているわね」

 今までの、沙耶加の話では、ネズミと言う生き物は、何なのか分からないようだ。

「そうだ。生きている。その為にだ。俺の指示には従う事。それは守って欲しい」

「はい。従いますわ」

「はあ、行くか」

 自分の気持ちを引き締めるような言葉を上げ、歩き出した。

「ねね、どの店屋なの?」

 シロは、魚屋、肉屋など何件かの店屋の前を通るたびに興味の視線を向けていたが、どのような食べ物なのか考えるだけに我慢出来なくなったのだろう。天猫に話しを掛けた。

「えっ、何の話だ?」

「ネズミを探しているのでしょう」

「えっ、ああ、そうだぞ」

「どの店屋なの。狩って何なの?」

「店には置いて無い。狩と言うのは流れの珍味を売る店屋だ。それを探す事だし、そして、美味しい物か不味い物か見極めて値切るのだぞ」

「お金が必要なの?」

「違う。必要は無い。犬の大好物だし、犬が護衛している。犬からも猫からも守らないと行けないからな。その犬の分を分けて貰うのだ。それが、交渉って意味だ」

 天猫は、話しをしている内に、何を言っているのか分からなくなってきたのだろう。最後の方では、早口になり無理やり話しを合わせよう。としている感じだった。

「そうなの。それで、何かを探しているように歩き回っているのね」

「そうだぞ。安心して付いて来い」

「はい。何だろう。楽しみにしています」

 シロは、長年楽しみにしていた物が食べられる。そう思っているからだろう。空腹を忘れ、愚痴もこぼすことも無く、笑みまで浮かべながら歩いていた。

「ああ、いたわ」

 沙耶加が安堵の声を上げた。二匹の猫を見付けたのだ。それは、シロと天猫に間違いなかった。

「これで、帰れるのね」

「良かった。やっと、二人で来てくれた。心配したよ。静お姉ちゃん。鏡お兄ちゃん」

 天猫は、二人が視線に入ると、鳴き声を上げた。それでも、鳴き声が聞こえ無い。そう、分かったからだろうか、いや、違う。聞こえていても、沙耶加と海では意味が無い。二匹を捕まえる事しか考えていないからだ。それで、二人を神社まで連れて行かないと意味がない。そう考えて、二人を導く為に走りだした。

「シロ。あれだ。狩をするぞ」

「え、どこ、えっええ、狩をするの」

「そうだ。付いて来い」

「シロちゃん。待って、待って」

 沙耶加は、二匹が走りだしたので捕まえようと駆け出した。

「はあっ。はっあ。やっと逃げないでくれた。怖かったの。大丈夫よ。私を憶えているでしょう。向かいに来たのよ」

「にゃ、にゃ」

 シロが鳴き声を上げた。まあ、沙耶加に分からないだろうが、恐らく愚痴を言っているはずだ。「ネズミは、どこ?」とか「元の神社に帰ってきたわよ」とかを、天猫に言っているのだろう。それを分かるはずもなく、沙耶加は二匹に近づこうとした。

「そうそう、いい子ね。迷子になっていたの。探したのよ。さあ、帰りましょう」

 沙耶加は、猫の鳴き声が自分の考えていると同じに思い。何度もうなずいていた。

「にゃ、にゃあ」

 シロが、鳴き声を上げるが、二人に近寄る事はしなかった。天猫の方をみて、鳴いているのだ。それを、心配になり、静が、怖がらせないように二匹に近づいた。

「にゃ、にゃにゃ」

 天猫は、シロに脅すような鳴き声を上げた。

(シロ、それ以上近寄るな。その場に居ろ。もし、俺や、二人が消えても、近寄るなよ。そうなった場合、主が居る家に帰れ。全ての事が終われば、話しをしに行く。良いな)

「にゃ」

(はい)

 シロは、天猫に向かって、何ども頭を下げていた。

「如何したの。おいで、お腹も空いたでしょう。帰りましょう」

 沙耶加は、猫語が分かるはずも無く、自分が呼ばれていると思ったのだろうか、それとも、怪我でもして動けないのかと心配で、二匹の気持ちを落ち着かせようと言葉を掛けた。

「にゃああああ」

 天猫は、シロが沙耶加に捕まりそうになった時、像の身体の上に飛び乗った。そして、シロも飛び乗った。だが、二匹は乗る事も出来ず。シロだけが直ぐに降りてしまった。と、同時に沙耶加は、捕まえようとしていた為、止まる事が出来ずに像に触れてしまった。

「きゃああああ」

 沙耶加は、静電気よりも強めの痺れを感じて大声を上げた。その声を聞いて、海が駆け出した。その時、海の体を動かしたのは、海なのか、鏡なのか分からないが、沙耶加の腕を像から離そうと、像に触れた。

「うぉお」

 悲鳴なのか、驚きなのか分からないが、海も声を上げた時、天猫が像の上から消えた。

「ここは、何処だ?」

 天猫は、一瞬の内に、像の上で無く、暗くて身体が浮いているような感じを味わった。何処か分からないが、先ほどまでいた世界とは違う所にきた。そう感じた。

「あっ。鏡お兄ちゃん。静お姉ちゃん。大丈夫?」

 時間にして一分位だろうか、すると、光苔のような幽霊のような二体を見つけ。それが、誰か分かったのだろう。言葉を掛けた。

「大丈夫よ」

 静は、天猫を安心させた。

「天、今いる場所が、何処か分かるか?」

「分からないよ。でも、何か、憶えあるよ。最後の獣を倒す為に入った所と似ているよね」

「そうだな」

「きゃ」

 静が悲鳴を上げた。

「静。どうした。うぉー」

「どうしたの?」

「身体が引っ張られる。天、来るな」

「そうよ。天ちゃん。来ないで」

「でも」

 天猫は、心配で、二人を見続けた。

「俺の身体が見える」

「あっ、私も」

「身体に帰れるの?」

 天猫の、言葉が最後まで話し終える前に、二人は、消えた。だが、天猫の目には見えていた。それは目で見ているのか、頭の中で感じたのか、まるで夢のように二人の様子が見る事が出来た。二人肉体は、マネキンの人形のように血の気が無かったのだが、だんだんと、人間のように温かみが感じられてきた。それを見て安心したが、完全に身体を動かす事が出来ない。それでも二人は、首を振り、腕を回し自分の身体を確かめているように感じられた。そして、不思議な影を見て言葉を無くした。

「ほう、帰ってきたのか」

「嘘だろう。最後の獣だ。今助けに行くよ。待っていて」

 天猫は声を上げるが、言葉は届いているとは思えない。二人が聞こえているとは思えない態度だったからだ。

「うっ」

 天猫は、体が引っ張られる感じを受けた。二人の場所に行ける。そう感じたのだが、行けない。何故かそう感じた。二人の姿がだんだんと見え無くなってきたからだ。

「嫌だ。何処にも、行きたく無い」

 大声を上げた。でも、何か、声のような感じで聞こえ。それに意識を集中した。それで、それ以上は声を上げなかった。

「ん。誰?」

「如何したの。貴方が来るのは、ここよ。早くおいで」

 母のような優しい声が聞こえてきた。

「お前は誰だ。それよりも、俺は何処にも行きたくない。鏡お兄ちゃん達の所に帰せ」

「でも、貴方は、私の所に来ないと駄目よ。さあ、怖がらないで、こちらに来なさい」

「嫌だ」

 そう答えたが、突然目の前が眩しくなり。女性の元に来たと感じた。天猫は、周りを見るゆとりは無かった。それ程、二人の事だけしか考えられない為だろう。

「貴方の夢は何、その為に来たのでしょう?」

「何を言っている。なら、鏡お兄ちゃん達の所に行きたい」

「何を言っているか分からないけど、ここはね。猫の天国なのよ。あなたの寿命は、そろそろ終わるの。私はね。猫が好きだから、この、猫の天国を造ったの。出来る事をしてあげたいのよ。それだけなの。猫の望みなら私でも出来る事が多いからね。ねね、何が食べたいの。好きな猫でも居たのかしら、何でも言っていいのよ」

「お願いです。鏡お兄ちゃんと静お姉ちゃんの所に連れて行って欲しい。二人は命の危険に会っているはず。出来たら、二人を助けて欲しいのです」

「ご主人様の所に帰りたいの。でも、ここなら少しは長く生きられるのよ。そして、主の一生を見守る事が出来るわ。時間の流れが違うの。まあ、言っても分からないわね」

「そんな事はどうでもいい。俺の命が短くなってもいいから早く連れてってくれ」

「そう、元の世界に帰りたいの」

「そうでは無い。さっき居た場所に帰してくれよ」

「そう言われても、どこの場所?」

「だから、さっき俺達が居た場所だよ」

「俺達、と言われても、貴方だけが居たのよ」

「そんなはずは無い。鏡お兄ちゃんと静お姉ちゃんと一緒に来たはずだ」

「あの道は猫しか通れないわ。人は通れないのよ」

「ああ、人と言うか、幽霊みたいな感じかな」

「そうなの。それなら通れるかもしれないわね。でも、それなら、どこかに弾き飛ばされたかも知れないわ。幽霊なのでしょう。探しようが無いわ。物とか人なら・・・」

「ああ、そうだ。人を探してくれ、自分の身体に帰ったよ。それなら大丈夫だろう」

「なんか分からないけど、幽霊でなくて人を探せばいいのね」

「そうだ。早くしてくれ、鏡お兄ちゃんも静お姉ちゃんも殺されるかも知れない」

「何で、危ないって分かるの?」

「殺されるかもしれない。そう言っているのに早くしてくれよ」

「もしかして、今、二人の様子が見えるの?」

「今は見えない。さっきの場所では見えたぞ。頼むから早くしてくれ」

「見えたのなら探しだせるかも、この場所から猫の主とか、思い人の様子を見られるから」

「説明などいい。早く連れて行ってくれ」

「あらあら、忙しい猫さんねぇ」

「ふざけないでくれ、二人の命が危ないのだぞ」

「そうよね。ごめんなさい。それでは何とかしてみるわね」

「出来れば急いで下さい」

「ああ、そうそう、名前を聞いてなかったわね」

「はあー。あのう。はい、天猫と、言います」

 女性の態度をみて、何を言っても無駄。そう感じたのだろう。大きな溜め息を吐いた。

「天猫さん。こちらに来て。そして、その台に乗ってくれませんか」

 天猫が台に乗ると、手馴れたように機械の操作を始めた。

「これで、行けるのですか?」

「行けないわ。でも、二人がいる場所が分かるかもしれないわ」

「だから、俺は、鏡兄ちゃん達を見るので無く、その場所に行きたいと言っているのだぞ」

「そうよ。行くには場所が分からないと行けないでしょう。それを探すの」

「それで何をすればいい」

 身体の数箇所に聴診器みたいな物を付けられ嫌な気分を感じているようだが、二人を助ける為だろう。進んで指示を求めた。

「これと言ってする事は無いわ。ただ、二人と別れた様子を思い出して、そして、それだけで無く、二人の事を詳しく思い出すの。二人の意識と貴方の意識が一致すれば、装置が反応するわ。そうすれば、二人が見えるはず。見えたら教えて」

「みっ、み、見えた」

「良かったわ」

「うぁああ、鏡お兄ちゃん。危ない。逃げて」

 天猫は、鏡と静が横になり寝ているよう姿を見た。それだけなら、安心して見守っていただろうが、そうでは無かった。恐竜の尻尾のような物が鞭のように、二人の顔すれすれに飛び回っているのだ。そして、気まぐれのように身体ぎりぎりに打ち付けていた。

「如何したの」

「もう待って居られない。直ぐにでも助けに行かせてくれ。駄目なのか?」

「確証はないけど、神社の像の行き先を、二人が居る場所に繋げてみるわ。行けると思うわ。それで、私が居る所にこられたのだからね」

「何でもいい。直ぐに試させてくれ」

「いいわ。今、入れ替える。行ってらっしゃい」

「うぉおお」

 天猫は叫んだ。痛みを感じたからでは無い。二人が居る場所を目で見ていたのだが、突然に目の前に近づいたように感じたからだった。

「消えたわね。行けたのかしら?」

 そうつぶやきながら又、機械の操作を始めた。恐らく、行き先を確かめているのだろう。
                                                

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